ソニーが13日より発売する「VAIO Z」シリーズは、従来筐体の内部に内蔵されていたdGPU(単体型GPU、NVIDIAやAMDなどが提供するPCI Express接続のGPU)を、LightPeakで外部接続する「Power Media Dock」(以下、メディアドック)に移動し、本体の薄型軽量化に成功。かつ、メディアドック接続時にはdGPUを利用した高い処理能力も利用でき、モバイル時の薄型軽量性と、会社や自宅に帰ってきたときの高性能という、相反する2つの使い方を実現しているところに大きな特徴がある。
本レポートでは、そうしたVAIO Zの内部構造などについて、ソニーのエンジニアにインタビューした結果などを元に解説していきたい。実際に内部を開けてみて見えてきたことは、VAIO Zの内部アーキテクチャが他のノートPCには見られないほどユニークなモノであるということだ。
●リテール向けのモデルが25万円という価格設定は高いか安いか? VAIO Z(以下本製品)の内部構造について語る前に、まず最初に語っておくべきなのは、その価格についてだろう。メディアドック付きの量販店向けモデルが実売25万円前後という価格設定は、低価格化が著しいノートPCの世界では"ハイエンド中のハイエンド"と形容してもいい。例えば、13型液晶とCore i5、256GB SSDを搭載しているAppleのMacBook AirがAppleの直販価格で138,800円という価格設定であることを考えると、実に10万円近くも高い計算になる。ただしVAIO Zも、VAIOオーナーメードの最小構成ならば144,800円だ。
この点についてソニー株式会社 コンスーマープロダクツ&サービスグループ VAIO&Mobile事業本部 企画戦略部門 企画1部 Product Portfolio Management課(PPM課) 金森伽野氏は「我々がやりたかったことは、究極のモバイルをお客様に届けると言うこと。このため、最先端の技術を常に投入しており、その結果としてやや高めの価格設定になっているが、お客様のニーズに見合った機能を投入していけば、お客様に受け入れていただけるのではないかと考えている」と説明する。つまり、より尖った製品が欲しいユーザー向けに作ったのだからこそ、価格も尖ってしまったのだというのだ。
これについては、さまざまな考え方があることは筆者も理解している。まず第一に言っておきたいのは、PCビジネスにおいて常に価格は王様だ。だから、PCを単にPCとしてしか見ていない人に、値段が倍だということを理解してもらうのが難しいことは否定できない。この点で本製品を万人に勧められる製品か、と言われれば、そうではないと言わざるを得ないだろう。
だが、こう考えてみて欲しい、このVAIO Zは車でいうところのスポーツカーなのだと考えれば、この価格もありなのではないか。例えば、日産自動車にはフェアレディZとGT-Rという2つのスポーツカーのラインナップがある。このうち、GT-Rは非常に高い性能を持ち、欧米のスーパーカーにも匹敵するような超高性能車なのだが、値段は800万円前後と1,000万円を切る価格が高く評価されているのだ。それでも標準的なスポーツカーであるZの倍の値段設定だ。
これをどう捉えるかだろう。GT-Rの性能で800万円は安いと考えるのか、それともZが2台分と考えるのか、あるいは普及価格帯の車であるマーチ8台分と考えるかは人それぞれだ。ただ、欲しいと思う人が居て、メーカーの損益分岐点を超えるぐらい売れ、ビジネスとして成り立っているのであれば、メーカーにとってもアリだし、ユーザーにとってもハイパフォーマンスなスーパーカーを量産スポーツカーの倍程度の価格で買うことができるのであれば、それは幸せなことではないかと思う。
●"他の製品と比較して唯一無二な存在になる"という設計思想 筆者はVAIO Zも、まさにこの例に近いのでは無いかと考えている。確かに、VAIO ZはMacBook Airの2台分に近い価格であることは事実だ。しかし、MacBook Airやその他のモバイルノートPCにはない特徴を備えており、他のモバイルノートPCが全く追いつけていない部分がある。そこに価値を見出すユーザーにとっては、この製品を買うことで幸せになれる、そういう種類の製品ではないか、と。
「今回のVAIO Zでは、他の製品に比較して唯一無二な存在になることが重要だと考えて設計した。他社はやらないような機能を積極的に搭載していきたいと考えた」(ソニー株式会社 コンスーマープロダクツ&サービスグループ VAIO&Mobile事業本部 VAIO第1事業部 設計1部1課 プロジェクトリーダー 笠井貴光氏)と、ソニーの開発陣もそこは重視して設計したようだ。
では具体的にはどこが他社の製品と比べて"尖っている部分"なのか。笠井氏は大きく言うと以下の4点がポイントだと説明してくれた。
(1)dGPUがドック側に乗っているメディアドックのデザイン
(2)薄型のボディに通常電圧版の第2世代Coreプロセッサーを搭載したこと
(3)13.1型のノートPCでおそらく世界で唯一フルHD液晶を搭載可能であること
(4)RAID 0構成のSSDである"第3世代SSD RAID"を採用していること
今回のVAIO Zの設計のキモは、dGPUと光学ドライブをメディアドックと呼ばれるドッキングステーション側に搭載したことだ。従来のVAIO Z(VPCZ1x、Z1シリーズ)では、dGPUは本体側に内蔵されており、スイッチを利用して切り換える仕様になっていた。このデザインのメリットは必要に応じて低消費電力なiGPU(CPU内蔵のIntel HD Graphics 3000)と、高消費電力だが強力な処理能力を持つdGPUをシーンに応じて切り換え可能なことだ。
しかし、そうしたGPU切替技術には熱設計の観点で課題もある。というのも、熱設計を行なう段階で、CPU+チップセットに加えて、GPUの分の熱も計算に入れなければならないため、どうしても本体を厚くするなどして対処しなければならないからだ。しかも、最近のGPU切替技術は、iGPUとdGPUを切り換えるだけでなく、iGPUとdGPUが同時に動くシーンがある(iGPU、dGPUにそれぞれ2つのディスプレイをつないで4ディスプレイで使うシーンなど)。このため、両方のGPUが動いていることを前提に設計のマージンを見る必要がある。つまり、放熱機構を強化しない限り、難しいと言うことになる。AMDやNVIDIAが提供するGPU切替技術をそのまま利用すると、現状よりも薄くするのはかなり難しい。
そうした現状の中、本製品のようなデザインを採用すると、本体側の熱設計は図1のようになる。
つまり、最も低い状態で熱設計が可能になり、iGPUのみのノートPCと同じレベルの熱設計でよくなる。dGPUはメディアドック側にあるので、メディアドック側で独自に熱設計を施すことで対応可能なのだ。かつ、本製品ではZ1シリーズで本体側にあった光学ドライブもメディアドック側に移動しており、その点でも薄型化に大きく寄与している。
つまり、このデザインは薄型かつハイパフォーマンスの両方を実現する上で最も理にかなったデザインだと言っていいだろう。
●IntelのLightPeakのデザインにより、dGPUを外付けに 理想のデザインと言ったが、ではそれをどう具体的に実現するのかの道筋をつけなければ、単なる絵に描いた餅になる。というのも、dGPUを外部のボックスに移すというアイディア自体は古くからあるのだが、これまでほとんど普及した例はなかった。というのも、PCI Expressのバスをケーブルで通そうと考えれば、コネクタ自体が大きく、モバイルPCには向かないソリューションになってしまっているからだ。
そこで本製品の開発チームが選んだのが、Intelが開発したLightPeak(ライトピーク、開発コードネーム)だ。LightPeakは、2009年のIDF FallにおいてIntelが発表した技術で、光ファイバーケーブルを利用して高速なデータのやりとりが可能だ。このLightPeakは、3月にIntelとAppleが共同で発表したThunderboltのベースになっているが、ThunderboltとLightPeakでは以下のような点が異なっている。
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